UNCE UPON A TIME IN TAIMA

映画をネタ的切り口で適当に書くブログ。更新滞り気味。

2018年映画ベスト『わたしたちの家』

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その年のベスト映画ということでランキング形式で10本あげる方が殆どだと思いますが…

自分の中でベスト!とまで標榜できる作品は年に数本あればいい方です。私の選定基準においては。脚本や演出、単に作品の完成度だけでは決められない。それとはまた別に自分の心の琴線へ奥深く突き刺さるような、それまでの映画にはなかった新たな視野を広げてくれたような、その他の作品とは一線を画する“特別な映画体験”というくらいに呼べる作品でなければベストという冠は与えられません。

 

まあ単純に面白かったと思う作品を気軽に選べば良いんでしょうけどね。そもそも点数をつけるとか順位付けすること自体が嫌なんです。面白かった作品に上も下もない。いや、なんとなくは好みのレベルであるんでしょうけど明確化はしたくない。ジャンルが違う作品は比較出来ないし。アクション大作とヒューマンドラマじゃ全く評価するものが違う。どちらのジャンルが好きかということになるし結局は。

 

そんなハッキリと出来ない、させたくない性格であるのでベストとしてあげる作品は特別な作品だけにしたいんですよね。まあ面倒くさい奴だなぁ〜とお思いでしょうが…と、いう訳で今年のベスト映画は一本のみ選出でオンリーワンフィニッシュです。そしてそのタイトルは……

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わたしたちの家

黒沢清監督に師事した新鋭、清原惟監督の長編デビュー作。商業制作ではなく東京藝術大学大学院映像研究科 第十一期生修了制作作品。いわゆる卒業制作というものですね。

学生制作作品ながら、ぴあフィルム・フェスティバルやブラジルの国際映画祭でグランプリを獲得。そのほか各国映画祭などで上映されるなど高い評価を受けています。
この“黒沢清監督に師事”という点でなんとなく作風を察して欲しいですw

私の稚拙な文章力ではとてもこの作品の良さを説明しきれないので。

 

まずこの作品のことを語る前に最近のインディペンデント映画で評価される作品の傾向について。新人監督の鮮烈なデビュー作!という触れ込みでバイオレンス志向の過激な作品が多いと思うんです。これまで邦画にその類の作品が皆無だったのかというと否、70〜80年代はメジャーでもそういう作品は多かったし、それこそインディペンデントや未公開Vシネなども見ればそういう作品は絶えずにあったと思うんですね。だからジャンルとしては目新しい訳ではない。

 

まあしかしテレビ映画が闊歩する邦画メジャーでは久しくなって、そんな中で勢いのある新人の監督が景気の良いバイオレントな映画で殴り込んできたっ!って歓迎ではあったんでしょうか。でも今やメジャーでもその類の作品が波及してきた今としては多少そのジャンルが飽和気味だと思うんです。新人監督がインパクトを残すために過激な作風を打ち出すことはいいとしても、あまりにもそういう作品が出揃い過ぎた現状だと逆にそれがマンネリ。年齢と共に好みが変わってきたのもありますね。とにかく過激さがウリの作品はもうお腹いっぱい…何か別の方向性で才能溢れる監督は出てこないものか…と思っていた時に、まさに彗星の如く現れたのが本作、そして清原惟監督なのでした。

 

 

 

 

わたしたちの家』のタイトル通り、“一軒の家”にて物語が展開する室内劇。本作では二組の主人公が登場します。

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もうすぐ14歳の誕生日を迎える少女“セリ”。父親が失踪して以来、母親の“桐子”と二人暮らし。最近、母親に新しい恋人ができて複雑な思いを抱えている。

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目覚めるとフェリーに乗っており、それ以前の記憶をなくしていた女性“さな”。彼女は船内で出会った女性、“透子”の家へ住まわせてもらうこととなる。

 

この二組の主人公、合計四人の共同生活?と思いきや違います。同じ家を舞台としながらそれぞれが独立した世界観なんです。この2つの世界を隔てるものが“時間”なのか、それとも一方は“幽霊”か“幻”か、それとも“平行世界”の出来事なのか、説明を廃した語り口からは明確な答えは得られないのだが、なんとも評しがたいこの捉えどころのない物語の虜になってしまう。

 

この2つの物語は一見絡み合いそうに思えないが、家の中で感じる空気の流れや暗闇に感じる誰かの気配など、ふと感じる違和感によって互いに“見えない誰か”を意識するようになっていく。いよいよクライマックスには家の廊下をグルーっとカメラが回り込むその動きだけで2つの世界が確かにシンクロしていくという映像体感の昂揚感といったら!今までに味わったことのない新鮮さがあった映画でした。

 

ジャンル的にも正確にこれだと明言することが出来ない。思春期の少女の青春もの、2人の女性の友愛もの、何故かちょっときな臭いような展開もあったり、家において感じる誰か別の気配とかホラー映画っぽくもありますし。驚くほど豊かな物語が詰め込まれてるんですね。でもそのどれも捉えようがなくて翻弄されるのが心地良い。その捉えられなさが魅力である反面、非常に良さを語りづらい映画です。とにもかくにも観て欲しい。まだまだ全国順次公開中で機会があれば観て欲しい作品なのでこれ以上多くのことは語りません。いや語れないというべきかな。

 

 

 

ちなみに、この映画は劇場で鑑賞した訳ではありません。契約しているスターチャンネルで放映されたものを観ました。私、田舎民でミニシアター系映画弱者ですからそう容易にこの手の作品を劇場で観ることが出来ません。ベストを選ぶにあたって劇場鑑賞したものを前提にしている方も多いと思います。もちろん映画は劇場でスクリーンで観るのが一番なのは確かです。劇場と自宅では視聴設備の差、また気持ち的にも、心待ちにして劇場へ足を運ぶのと、何の気なしにレンタルで自宅で観るのとはだいぶ違います。

 

劇場鑑賞したものを前提に、という拘りはあっても良いと思います。例え自宅のテレビで若しくはスマホで観たものであったとしても自分にとって傑作たる、揺るぎようのない作品であるならばその時は例外的にでも拘りを取っ払って素直に作品を評価しても良いんじゃないかと思います。劇場鑑賞したか否かでそこで線引きしなくてもいいんじゃないのかと。

 

年間ベストとその年の映画を振り返る機会ですからより多くの作品が人の数だけ評価されるべきであると思うしそこで線引きがあって埋もれる作品が勿体無いなと思うんですよね。『わたしたちの家』は自宅のテレビで観たとしてもそれでも自分にとって揺るぎようのない傑作でしたから劇場で観てなくともこれをベストに入れたかった。

 

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また年間ベストの中にNetflixオリジナルの作品を入れている方もけっこういますね。劇場公開を前提としないこれらの作品も今後より増えていくでしょうし視聴法も多種多様化していく中で劇場鑑賞のみに絞ってしまうのも時代に即してないのかなと思うところもあります。

 

まあしかし他人の主義を曲げることは出来ないし、なんだかんだと一本しかベストを選んでないお前がどの口で言ってんだって話ですけどね、うん。