UNCE UPON A TIME IN TAIMA

映画をネタ的切り口で適当に書くブログ。更新滞り気味。

クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜

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今の時代に蔓延する病巣へ鋭く切り込んだ感動路線でもないギャグ路線でもないクレしん映画の新たな傑作!!!

公開当時もそのようにツイッターでつぶやいたのですが、この度11月9日に目出度くDVD &Blu-ray発売と相成りましたので、いつでもこの傑作が見られるゾ!!ということでちょっとした紹介記事をば。更に公開以後のトピックとして今年6月29日をもって野原しんのすけ役を降板した矢島晶子さんの劇場最後の登板ともなりましたからこの作品を見届ける意義がより深いものになったとも言えますね。完全なネタバレは無しにてお送りしたいと思います。

 

 

 

 

 

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今作は見ての通りにカンフー映画をモチーフにした作品となっていますがただカンフー映画のパロディを表層的に盛り込んだ作品ではない。映画ファンをくすぐるような分かりやすい映画ネタ的パロディは殆どない。

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というのもジャッキー・チェンを駆り出すまでの徹底的なカンフー映画パロディは既にテレビスペシャル『トレジャーハンターみさえ』にてやり尽くしており表層的なパロディをやってもこれ以上のものにはならないとの監督の判断から今作ではより深くカンフーへ切り込む、まさに武術の真髄を追求するという内容となっています。

 

それが前述した現代へ一石を投じる切れ味鋭いテーマにも繋がっており、オトナ帝国の呪縛を脱して今まさにクレしん映画第二の黄金期ともいえる盤石のクオリティにて更に新たなる傑作がここへ放たれたことに公開当時にとてつもなく感嘆したのであります。

 

 

 

 

 

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今作の敵は食べた人間が中毒を発症し凶暴化する危険なラーメンで世界を牛耳ろうと企むドー・パンパン率いるブラックパンダラーメン。平山夢明著の東京伝説の『カンダタラーメン』を彷彿とさせる若干アブない匂いを感じさせますね。(元ヤクザのラーメン屋がラーメンの隠し味にシャブを振りかけてたというお話です。)

 

しかしこのいかにも悪役然とした悪役はあくまでも今作で描かれるテーマの前座でしかなかったりする。悪に対する“正義”これこそが今作のテーマとなっています。

 

 

 

その一方、カスカベ防衛隊の面々は…

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何やらいつもと様子の違うマサオくんを心配したカスカベ防衛隊の面々が休日のマサオくんの後をつけていくと……

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春日部市内の中華街“アイヤータウン”にてマサオくんはカンフーの修行をしていたのでした。

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その名もぷにぷに拳!!この拳法を極めし者は世界に“平和”をもたらすと言われている伝説の拳法。ここで“平和”という言葉も出てきました。平和、そしてそれをもたらす正義…今作は真の正義とは何か?真の平和とは何か?がテーマになっています。

 

 

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そしてそのぷにぷに拳の師匠を関根勤さんが演じています。これまた関根さんの演技が非常に達者で言われなければ分からないぐらい自然に演じています。非常に聴きどころです。筋金入りの映画ファンの関根さんだから嬉々として演じていたのでしょうね。ゲストの芸能人キャストの巧みな使い方もクレしん映画の特徴です。他にもみやぞんの使い方なんかも実に上手い。合わせて本編で確認してください。

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師匠の一番弟子、今作のヒロインであるランちゃん。案の定しんのすけは綺麗なおねーさんに惹かれて、そしてカスカベ防衛隊の面々は正義を守るための戦力アップのために、みんなでぷにぷに拳を学ぶこととなります。

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かくして修行に励むカスカベ防衛隊。だがアイヤータウンの一帯を地上げで潰し巨大なブラックラーメンヒルズを建てようと企むブラックパンダラーメンの魔の手が迫ろうとしているのでありました……。

 

 

 

 

 

 

お話のさわりはこんな感じ。分かりやすく正義と悪の闘いが繰り広げられる訳ですが、テーマが明確に浮き上がってくるのは中盤以降。“正義”と“平和”がテーマと申しましたが思いもよらぬ展開を見せていきます。熾烈な闘争の果てに辿り着く行き過ぎた正義。これがとあるキャラクターの変化によって描かれます。これです。これこそが現代に蔓延する病巣というべきもの。特にこのネットだとよく目にすると思います。過剰な正義を暴走させる輩の姿を。こういうテーマを持ってくるところは流石としか言いようがないです。

 

ぷにぷに拳法の奥義を全て修得したものだけにもたらされる究極の奥義“ぷにぷに真掌”この奥義によってこの世に平和をもたらすことができるとされている。ブラックパンダラーメンを打倒するためこの奥義を会得しようとするのですが……確かに平和をもたらす技には違いないのですがその実態はかなりヤバい。ここからの展開こそが描かれるテーマの真骨頂である。これも本編で確認を。

 

 

 

 

 

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宣伝では友情というテーマも前面に出されています。誰より先にカンフーの修行をしていたにも関わらず奥義を会得できず落ちこぼれてしまうマサオくん。失意のあまりカスカベ防衛隊を離脱してしまうのですが…ここも“力なき正義は無力なのか?”というテーマがあるかと思います。マサオくんとしんのすけたちを巡る友情も終盤の展開へと絡んでいきます。

 

 

 

そして終盤はクレしんらしいアバンギャルドなクライマックスを見せ、そこに至るまで色々と丁寧に伏線が敷かれていたことが分かる構成も見事で。そして少し話を遡りますがそこ伏線だったのか!って驚いたのと笑ってしまったとこだったので言及しておきたい部分があります。

 

しんのすけの十八番である“ケツだけ星人”を今作なかなか披露してくれません。実は何気にそこが後のとある展開の伏線であるという。ケツだけ星人が披露されるそのタイミング、そしていつもよりキレのあるケツだけ星人、そこに着目してみてください。

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はて、ここまでの私の拙い解説で今作が魅力的に思えたでしょうか?少しでも観たいなと思って頂けたら良いのですけれどもね。

そしてここからは完全に余談となりますが、今作を観て思ったことがありましてね。今作のテーマと同じことをやろうとしていたのでは?と思える作品がひとつありまして。

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それは近年の邦画の中でもトップクラスの愚作と断言してもはばかりない『少林少女』です。何度観てもさっぱり意味の分からない珍妙な作品ですが今作を観たあとだと、目指すべきところは同じだったのではないかと思えます。まあそれが全く1ミリ足りとも表現できていないから愚作なんですけど。少林少女がカンフーというものを通じて表現したかったテーマは爆盛カンフーボーイズが体現したものと同じだったのではないかと思うんですよね。

 

もしかしたら今作を観た後に少林少女を観たら多少なりとも少林少女の評価を見直すことが出来るかもしれません。いや、観なくていいですけどねw

 

 

 

では最後のまとめにぷにぷに拳の極意を唱えて終わることにしましょう。

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トゲトゲやガチガチにならず

常に ぷにぷにの心であれ

人はやわらかい心を持って

己のことばかり考えずに

他人と つながって生きるべし

一見おふざけのネーミングのようなぷにぷに拳ですがちゃんと今作のテーマとメッセージを込めたものであることが分かります。戦うための力ではなく平和を愛する、柔軟で「やわらかい心」を育てること。深いですね。今作で描かれるテーマを主題として長々と語ってきましたが決して押し付けがましくなくいつも通りにただ観ていて楽しい素敵なクレしん映画です。